インドは、2014年に「メイク・イン・インディア」政策、2020年に「生産連動型優遇策」制度を導入しました。これらもまた、現地の市場に影響を与え、多国籍企業は現地のインフラの見直しを迫られています。最近の例として、Medtronicは3月に、米国以外で最大の研究開発施設のひとつであるインドのハイデラバードのMedtronic・エンジニアリング&イノベーションセンターに3億5,000万ドルを投資する計画を発表しました。同様に、シーメンスヘルスニアーズは、2025年までに1億9,770万ドルを投資し、インドのバンガロールにイノベーションハブを設立する予定です。これらの動きは、多額の投資を呼び込む上で国内政策の影響力が増していることを明らかにしています。
さらにインドネシアでも、国内生産拡大のために政府による同様の取り組みが行われ、2014年に国産化率(TKDN)が導入されました。医療機器の輸入品は、政府調達において、現地調達率の要件を満たすことが前提条件となります。インドネシア保健省によると、2023年第3四半期時点で、政府の電子カタログに記載されている製品のうち50%以上がTKDN認証を取得済みです。
市場参入とサプライチェーン構造とがますます密接に関連しあう中で、製造業の強化を目指した何十年にもわたる取り組みが、世界の主要市場においてCOVID-19後の国政の現実政治と組み合わさっています。政府は信頼ある医療提供の必要性に対する認識を強めており、地域の将来性のためへの投資を続けています。関係者による地域全体の継続的なイノベーションと協力に支えられながら、Medtechの現地化の有効性を高めるためのさらなる動きが予想されます。APACで活動する企業にとって、現地生産のための投資を検討することは極めて重要な課題となっています。トレードオフを考慮しながら、しっかりしたビジネスケースを作成し、長期的な成功を支えるための存続可能なビジネスモデルを構築する上で、サプライチェーン、製造拠点、商機を慎重に評価することが不可欠です。多国籍企業がこの地域における規制や競争環境の変化にうまく対応していくためには、これらの戦略的評価を行うことが極めて重要です。
デジタルヘルスとロボティクス:イノベーションを先導する
COVID-19パンデミックがきっかけとなり急増した遠隔医療は、その後、遠隔医療のインフラ、ウェアラブル、遠隔による検査や治療技術の進歩により、外来診療や在宅医療サービスにおいて大きな進化を遂げています。APAC地域全体では、中国を始めとして遠隔医療の導入が増え続けており、特に、インドネシア、フィリピン、マレーシア、インドなどの東南アジアの市場で急増しています。
同時に、APAC全域においてロボティクスが医療提供を新たに形作っています。中国では、国内の100社以上の企業が、整形外科、腹腔鏡検査、神経科、歯科などの主なサブセグメントを網羅する手術支援ロボットを開発しています。2022年には、前年を大幅に上回る、少なくとも15件の手術支援ロボット製品が中国国家薬品監督管理局により承認されました。APAC全域では、政府による手術支援ロボットへの支援も手厚く、現在、日本、韓国、台湾では公的保険で多くの手術がカバーされます。
2024年には、医療への人工知能(AI)の導入により、業務効率と医療の質において新たな時代を迎えました。医療へのAI導入の割合の点で、APACは米国に次いで世界第2位に位置付けています。初期のアプリケーションは、主にスケジューリング、文字起こし、患者管理などの業務に特化していました。診断支援AIは、今ではより広く受け入れられており、この分野への多額の投資とイノベーションを示唆しています。一方で、AIの可能性を十分に引き出すには、変化する規制への対応、データガバナンス、戦略的なデータ活用が、安全性と有効性を確保する上で非常に重要な鍵となります。
従来の医療機関によるこれらの技術の導入が進むことにより、より患者を中心としたデジタルベースのアプローチへの移行が必然となっています。企業は競争力を維持するために、デジタルインフラへの投資と、急速に変化する市場需要に対応するための革新的なツールを備えておかなければなりません。
APACのMedtechとプライベートエクイティ:厳しい環境での投資機会の舵取り
APACのMedtech市場の投資動向は、成長の機会とマクロ経済の逆風の兼ね合いにより形作られています。市場関係者は、今年から来年にかけて勢いが戻ることに注目しています。日本も直面する金利上昇や為替変動は、取引評価額や資金調達に影響を与えています。一方で、医療ニーズの拡大と高齢化を背景として、プライベート・エクイティ(PE)投資家にとってAPACは引き続き魅力的な地域となっています。特に、医療は引き続きAPACで最も活発なセクターのひとつで、2023年に行われた買収のうち、テクノロジー領域の件数ベースで、メディア・通信、消費者セクターに次ぐ第3位となっています。MedtechセクターのPE活動に関しては、前四半期と比べて2024年第2四半期は金額ベースで減少した一方、取引数は安定していました。
地域別では、4月にインドで、国内最大の眼科機器・眼内レンズメーカーであるAppasamy Associatesの経営権がWarburg Pincusにより取得されるなど、大型取引により大きな実績を残しました。その他のPEが保有する主な企業の動向として、Everstone CapitalのTranslumina TherapeuticsとEverlife Holdingsの合併があります。この重要な合併は、最終的に高値が付いた新規株式公開に結びつき、APACのMedtechセクターにおいて、今年最も注目された取引のひとつとなりました。さらに、2022年2月22日にWarburg Pincusは、インド最大の医療機器メーカー、Meril Groupの親会社であるMicro Life Sciencesの少数株を取得するために約2億1,000万ドルを投資することに合意しました。
中国は、グローバルサプライチェーンと巨大な市場潜在力における重要な役割、また技術品質に対する多国籍企業による認識向上に支えられ、依然として投資対象の中心となっています。顕著な例として、歯科ソリューションを提供するスイスのStraumann Groupが、上海にある口腔内スキャナーメーカーのAlliedStarを買収しました。この合併により、同社の製品は今年APACで発売されたStraumannのAXSデジタルプラットフォームに統合されます。一方で、規制強化と地政学リスクにより、中国でのイグジットの魅力が薄まっており、投資家はインドや東南アジアの国々など、より安定した市場への投資分散を促されています。これまで中国に重点を置いていたNovo Holdingsは、シンガポールの医療技術企業、Doctor Anywhereへ投資を行い、近年これらの地域にもテリトリーを広げています。Carlyle Groupも、日本の医療ニーズに対応するために、デジタル療法のMedtechリーダーであるCureAppに出資し、日本での投資を拡大しています。
東南アジアでは、市場の発展とともに主な投資領域も変化しています。デジタルヘルス、遠隔医療、医療サービスが地域の主な投資テーマとしてフォーカスされており、PEは技術の向上、サービス提供や市場範囲の拡大に重点を置いています。東南アジアの遠隔医療は、大きな成長の可能性がありながら過小評価されているため、とりわけ魅力的な市場となっています。デジタルヘルス分野では、インドネシアのHalodocやシンガポールのSpeedocなどの企業に対して多額の投資が集まっています。
さらには、PEが援助する複数のMedtech企業がこの地域の市場に参入する予定であり、これはAPACのイノベーションを後押しするPEファンドの役割を強調するものとなっています。Coronet Venturesが出資しているAevice Healthは、喘息と慢性閉塞性肺疾患(COPD)モニタリングのための世界最小スマート聴診器であるウェアラブルデバイスを開発し、8月に700万ドルの資金を確保しました。Taiwania Capitalが主導するシリーズDラウンドで600万ドルを調達したAPrevent Medical Inc.は、片側声帯麻痺に対して初めての調整可能なインプラントを提供します。その他の注目すべき企業には、AlfaleusTechnology(仮想現実を活用した弱視治療)やMedipixel(AIによる冠状動脈の画像分析システム)などがあります。
APAC戦略を立てる投資家は、今後を見据えながら、地域力学の変化を考慮に入れ、AIやロボティクスなどのイノベーションのトレンドに対応しなければなりません。より厳しい市場環境の中で、資金提供者は効果的な戦略を通じて流動性の懸念に対して積極的に対応し、投資サイクルの早いタイミングで収益への自信を植え付ける必要があります。
終わりに
APAC地域が医療技術の未来を決定づける新たな地域であることは明らかです。APACは、巨大な人口に加え、Medtechの世界総支出のうち大きな割合を占め、単なる成長市場にとどまらず、イノベーションと変革における重要な原動力となっています。進化する規制の枠組み、急速な技術の進歩、医療ニーズの変化に形作られるダイナミックな環境の中で、Medtech企業は戦略の修正が求められています。先見の明のある企業が、複雑であると同時に豊富な機会が存在する地域で足場を築くために対処すべき重要な課題に焦点を当てることがこの文書の目的です。
2025年を見据えたAPACのMedtechセクターにおける成功への道は確固たる行動にあります。企業は現地パートナーとの関与を深めながら、絶えず革新し、規制や償還の複雑さに対して機敏に対処しなければなりません。個別化医療とデジタルイノベーションの台頭により、現地生産能力の強化に重点を置いた積極的な対応が求められます。行動が必要なのは明らかです。先見性、協力関係、地域全体の医療に有意義な成果をもたらす取り組みを通じ、APACのMedtech市場の巨大な可能性を戦略的に解き放つ時がやって来きました。
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