A New Generation of Drug Therapies Requires New Business Strategies
researcher using pipettes
Discover the business impact of Advanced Therapeutic Modalities in drug development.
Volume XXVI, Issue 36 |

バイオ医薬品企業の臨床・市販後パイプラインの約20%を、他とははっきりと異なる治療資産群が占めている(2022年の推計)。アデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子治療(GTx)、細胞治療(CTx)、核酸治療(NAT)などのATMは、遺伝性疾患、血液悪性腫瘍、さらにおそらくは最も急を要するCOVID-19に対して、大きな臨床的影響を与えてきた。

2010年代のATMへの関心の高まりとともに、技術的新規性、複雑性、および能力上の制約(施設インフラと経験豊富な人材のいずれの点からも)を考慮して、製造上の課題が経営幹部の最大の関心事となった。製造所が閉鎖され、サプライチェーンが混乱したため、COVID-19パンデミック発生時にはこれらの課題がさらに悪化することとなった。これに対処するため、バイオ医薬品企業や医薬品開発製造受託機関(CDMO)は、歴史的な低金利に乗じてATMの製造能力拡大に対する投資を積極的に行った。

現在、製造リーダーは岐路に立たされている。その理由は、生産能力が需要を上回り、パイプラインの失敗、臨床の遅れ、開発の優先順位の変更などが原因で、施設が十分に活用されない可能性があるからである。現在のマクロ経済環境下では、継続的な工程開発、臨床開発、規模の拡大、製造のための資金調達には困難が伴い費用も高いため、経営陣は、内製か外注かの経営判断や、より広範な製造戦略アプローチを再検討する必要に迫られている。

パンデミック以前:Advanced therapeutic modalitiesの出現

初期の臨床試験の成功は、新たな製造技術やノウハウの必要性に加え、今後の実生産に向けた生産能力計画の必要性を示唆するものであった。初期のバイオ医薬品企業は、当初、ATMの第一波に対応するため、社内で生産能力を構築した。新たな製造ニーズを支援できる外部の専門知識やインフラがなかったからである。初期の臨床試験の成功がパイプラインの成長を促したため、結果として急速な生産能力拡大とそれに続くインフラ投資が後押しされることになった。その結果、パイプラインの拡大と成熟化が進み、急増する需要に対応できるよう、能力や生産能力への投資を目的として、CDMOを対象とした奨励策が生まれることとなった(図1参照)。

  • GTx: AveXis/NovartisによるZolgensmaの製造やSpark/RocheによるLuxturnaの製造などにみられる通り、最初に成功したAAV遺伝子治療は、一般に自社製造であった。これらの遺伝子治療薬の成功は、遺伝子治療の研究開発分野への新興バイオテクノロジー企業の殺到を引き起こした。2017年から2020年にかけて遺伝子治療パイプライン資産の数が記録的に増加(約28%)し、2020年の資金調達額が記録的なレベル(約200億米ドル)に達したため、CDMOは積極的に生産能力を評価し、新施設の開設や既存施設の買収(例:Thermo FisherによるBrammerの買収、CatalentによるParagonの買収)を行い、需要の増加に対処した。
  • CTx:一般に市販用のキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)治療薬の製造は、外部委託されていた:Oxford Biomedicaは、Kymriahの独占製造契約を締結し、Juno/Bristol Myers Squibb(BMS)はBreyanziの製造をロンザに外部委託している。また、Kite/GileadもYescartaについてCDMOへの外部委託を開始した。細胞治療のバイオ製造への投資は着実に増加傾向を続けており、CTxの生産能力は約30%増加すると予想されている(BioPlan 2021報告書より)。CTx製造に対する需要が増加するにつれて、「生産能力の深刻な不足」が起きると予想されたため、CTx製造工程を刷新する必要性が高まった。
  • NAT:希少疾患の適応に対する早期承認(例:2016年の脊髄性筋萎縮症を適応としたSpinrazaやデュシェンヌ型筋ジストロフィーを適応としたExondys 51)により、この技術は実証済みである。しかしながら、NATの第一波(主としてリボ核酸干渉療法とアンチセンスオリゴヌクレオチド療法)については、反応持続性と治癒の可能性を高めた他のATMが開発されていたことから、バイオ医薬品企業のパイプラインではあまり重視されていなかった。NATは主に希少疾患を対象としていたため患者数が少なく、臨床用・市販用の製造需要はほどほどを保っており、既に確立された化学的オリゴ合成法に依存していたため、細胞治療や遺伝子治療と比べても生産能力にかかる負担は少なかった。

この時期、あらゆるATMで経験を積んだ能力のあるCDMOの供給量を需要が上回り始めた。これが原因となって、パイプラインの急成長により臨床資産に生産能力のボトルネックが生じた。また、市販薬の場合も、規模拡大が容易ではなく、一般に、別々の、より大規模な、全体的に異なる設備に対する必要性が生じるため、生産能力のボトルネックが生じることとなった。

パンデミック時代:ATMの製造に対する投資の加速

COVID-19パンデミックにより、感染増加に対処するため、グローバルに展開するバイオ医薬品企業やCDMOは、ワクチンや治療薬の開発、生産規模の拡大、製造のために多大な努力を払う必要があった。CDMOへの依存度が高かったことから、ATMの製造業者はパンデミックがもたらした混乱に激しくさらされることとなった。CDMOは、いくつかの点でATMの製造工程を複雑化させることとなる、以下のような課題に直面した:

  • 開発中のウイルスベクターワクチン(例:J&J, AstraZeneca, Sputnik)にはウイルスベクター用の製造能力が必要となるため、CDMOは緊急性のないウイルスベクター製剤の製造を最終的に最小限に抑えることになった。
  • 新施設の建設や査察の中断、作業員の利用可能性が制限されてしまう疾患や検疫など、製造サプライチェーンのすべての部分が緊迫化した結果、人手不足となり、船舶や航空輸送ルートの減少が90%を超え、作業や製造の要件に混乱が生じた。
  • 他の製品よりCOVID-19ワクチンや治療薬を優先することが差し迫って必要とされたことにより、COVID-19ワクチンや治療薬に必要となる人材や供給資材(例:培養培地、フィルター)を巡る競争が激化した。

COVID-19パンデミックが引き起こした緊迫状態にもかかわらず、ATMに対する製造需要は持続していた。COVID-19メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンは、ATMに対する投資を促す大きなきっかけとなった。mRNAワクチン以外では、景気刺激策、高騰する評価額、ほぼゼロ金利のおかげでバイオ医薬品企業にとっては資本調達が容易となった。その資本は、以下のような、ATMパイプラインの拡大や成熟化に加え、社内の製造能力/生産能力への投資に使われることとなった:

  • Gilead Sciencesの子会社であるKite Pharmaは、2019年にカリフォルニア州オーシャンサイドにウイルスベクター製造施設を新設し、2022年10月にはFDAから市販用生産に対する承認を受けている。
  • BMSは、イリノイ州リバティビルに米国での新製造施設としてウイルスベクター製造用の施設を追加する形でCTxに対する製造能力を強化した。これにより、社内のCAR-T細胞治療の開発に加え、今後必要とされる能力としての外部の提携先との関係性の両方が増強されることとなった。
  • Rocheグループのメンバー企業であるSpark Therapeuticsは、フィラデルフィアにある50万平方フィート規模のGTxイノベーションセンターに5億7,500万ドルを投資し、GTx製造のグローバル・センター・オブ・エクセレンスとなることを目指した。

最終的には、パンデミックによって供給に混乱が生じる環境となったため、経済/資本環境が有利に働いたことと相まって、資本コストや自社製造における財務リスクといったマイナス面を上回るほど、生産能力の戦略的価値が重視されるようになった。その結果、社内インフラの構築が進み、短期間のうちに数え切れないほどの施設の整備・拡張が行われることになった(図2参照)。

現在の状況と今後の展望

現在、バイオ医薬品企業は、これまでとはまったく異なるマクロ経済環境下に置かれている。市場は歴史的な高インフレに見舞われ、過去40年の中でも最速の金利上昇を招き、2010年代からCOVID-19時代にかけての歴史的な低水準に金利が戻る可能性は低い(図3参照)。

金利の急上昇により、資金調達コストが上昇し、新興バイオテクノロジー企業が利用できる資金が減少した。こうした逆風を受け、バイオ医薬品企業が取る可能性の高い対応は以下の通りである:

  • 後期段階の資産に対する集中投資:大手であれ中小であれ、バイオ医薬品企業は研究開発パイプラインとそれに伴う支出を詳細に再検討せざるを得なくなっている。最近の多くの事例を見ても、バイオ医薬品企業は、初期段階のプログラムや科学的検証が限られている資産を犠牲にし、短期間で投資回収が見込める後期段階の臨床プログラムへの投資を優先している。パイプラインの合理化により、施設にかかる固定費/間接費が、製造する必要のある少数のバッチに分散されるため、設備当たりの売上原価(COGS)が増加する。こういった慎重な研究開発投資を行う傾向が、中長期的に続く可能性が高い。
  • 外部委託率の増加:バイオ医薬品企業は、研究開発費に加え、製造インフラ投資戦略の再評価の必要性にも迫られていた。評価額が史上最高値に達し、資金調達が基本的に自由で、資金も広く行き渡っていたCOVID-19景気の間は、社内の生産能力/製造能力の構築を目指すビジネス事例の実現は、今日の環境下で行うよりもはるかに容易であった。またそれと並行して、数多くのCDMOが資金的な追い風を利用して生産能力/製造能力を拡大し、ATMの製造経験を蓄積し続けた。このような状況では、バイオ医薬品企業が製造インフラの増設に伴う固定費や間接費の発生を回避しようと試みることから、ATMの製造の外部委託率がさらに高くなる可能性がある。
  • バイオ医薬品企業間の提携の増加:パイプラインや実生産規模への拡大に対応するため、数多くのバイオ医薬品企業が、生産能力/製造能力の増強を必要としている一方、プログラムを削減したバイオ医薬品企業は不要な余剰能力を抱えている。ATM用の製造施設は通常、特定のモダリティを対象として設計されているため、改装や別の目的で利用することが困難である。そのため、遊休生産能力がバランスシートの足かせとなるのである。その結果、ATMの余剰生産能力を有するバイオ医薬品企業が、他のバイオ医薬品企業との提携や合弁事業を検討し、固定資産の利用効率を上げて、コストのかかる資産の減価償却を回避しようとする可能性がますます高まっている。

財務上・経営上の課題がいくつかあるものの、社内の製造能力の構築・維持には戦略的価値が残されていることが多い。社内に製造能力があれば、奨励策や優先順位が競合する可能性のある外部提携先への依存度が低下する、またはゼロになる可能性がある。これにより、製造業者は、規制リスクを第三者に委ねるのではなく、施設の技術移転、工程、品質を徹底して管理できるようになる。また、バッチ製造の優先順位やタイミングも徹底して管理できるため、CDMOを活用した場合には対処が難しいバッチ不良や需要の変化が生じた場合でも柔軟に対応できる。Eli LillyやNovo NordiskがGLP-1を巡り激しく競争している中、この戦略がはっきりと見える形となって現れてきた。Novo Nordiskが先頃、Catalentから複数の施設を買収し、供給上の制約を緩和できるようにしたことで、市場での勝利という点から有利な立場に立つ可能性が出てきたのである。

医薬品製造投資戦略に関する考慮事項

医薬品製造における内製か外注かの経営判断をするには、細かく分かれた多くの側面から検討する必要があるが、以下にあげた重要な問いかけを使えば、経営面、財務面、戦略面から見た得失評価ができる:

  1. 需要予測の精度はどの程度か? 予測は常に推定ではあるものの、予測の中には、他の予測よりも「確定的な」仮定に基づいているものがある。例えば、既知の患者数が少なく、競合薬の数が限られている疾患を適応としたATMは、患者数が多く、現在も今後も競合企業が数多い疾患を適応とした場合よりも需要の推測が簡単かもしれない。承認される見込みが多岐にわたるために需要シナリオの幅も広い資産のポートフォリオを考慮する場合には、これがさらに複雑化することになる。
  2. 上市までにかかる時間は? 既存の施設を活用するにしても、GMPに準拠した原材料を作るための製造インフラの調達、設計、構築、設置、検証に3~5年かかることがある。投資の決定は、臨床/市販材料のクリティカルパスにならない程度の早い時期に行う必要があると同時に、医薬品を製造するための工程を適切に設計し、大規模な投資の妥当性が確保できるほどそのプログラムに対するリスクが十分に軽減できるだけの時間をおいた時期に決定しなければならない。
  3. COGSに競争力はあるか? 数量が少ない、および/または製剤の種類のばらつきが大きいポートフォリオの場合、社内製造に対する投資では効率が低くなる可能性がある。競争が激しい疾患を適応とした資産や価格設定に対する強い逆風が吹いている市場である場合において収益性を維持するには、COGSを同業他社と同程度かそれ以下に抑えることが重要である。社内製造に対する投資にある財務リスクを把握できるよう、需要が低い場合に考えられるシナリオを考慮し、安定したCOGSモデルを作成することが不可欠である。
  4. 工程技術に競争上の優位性があるか? ATMの多くで、最先端の治療薬を製造するために新たな工程技術が設計・活用されている。製造工程の背景にある知的財産により競争上の優位性が生じているのであれば、工程をさらに広範囲に利用できる可能性のあるCDMOと連携するより、戦略的な社内投資を行う方が、差別化要因を維持できると考えられる。

今回の分析は、ATMの製造に特化したものであるが、その枠組みは他のモダリティ(モノクローナル抗体、小分子など)にも広く適用できる。金利がゼロではない時代が続く中、これらの問いかけに対する答えを出すことで、社内製造に対する投資の決定を行う際につきものの財務上・戦略上の考慮事項に関する情報を手にすることができるだろう。

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